2018年5月12日、前回のブログで紹介したDusinberre先生と大学院生・研究生とともに、Linden Museumの企画展示 “Hawai‘i: Koningliche Inseln im Pazifik (Hawai‘i: Royal Islands in The Pacific)”*を見に、ドイツ・シュトゥットガルトに行ってきました。
写真1 Linden Museumの外観とハワイ展示のポスター
Johann Jacobs Museumがハワイの日本人移民にフォーカスしているのに対し、今回の展示ではハワイ先住民の歴史的調度品・装身具や現代アート作品が数多く展示されていました。会場に入ると、真っ先に目に飛び込んでくるのはノースショアでのサーフィンのビデオです。いわゆるハワイの典型的なイメージですが、奥に進むにつれて、現代から過去へ、楽園のイメージから先住民の過去へと導かれていきます。
ハワイのビショップ博物館にも何度か足を運んだことがあるので、王族や貴族が身に着けたカラフルな羽根のコートや石で作られたポイの調理道具などは見慣れたものが多かったのですが、驚かされたのはこれらの展示品がLinden-Museumだけではなく、ベルリンやコペンハーゲンなどのヨーロッパ博物館にも所蔵されていることです。たとえば、デンマーク国立博物館のEthnographic Collectionは、19-20世紀のアメリカ大陸や中央アジアへのScientific Expeditionsの際に収集した品々を所蔵・展示しています。ヨーロッパにあるハワイ・コレクションはアジア太平洋への探索のプロセスで集まられたものが多く、ここに「太平洋の大航海時代」の足跡を見ることができます。
写真2 デンマーク国立博物館所蔵のKi’i Hulu Maru(鳥の羽根でできた像)と現代アートのコラボ
しかし、太平洋の探索が欧米諸国による植民地化へと変化するのに、長くはかかりませんでした。そのような植民地化への抵抗や反発を描き出したのが、ハワイ先住民による現代アートの数々です。運よく、今回の訪問では、ハワイから訪れていた三名の研究者・アーティスト(Ivy Hali’imaile Andrade教授, Marques Hanalei Marzan氏, Kaliko Spenser氏)の話を聞くことができ、解説の中でとても印象に残ったのは「植民地化されたプロセスを(現代)芸術作品を通して描くことによって心を解き放つこと(脱植民地化する)ことができる」という言葉です。確かに、ここに集められた作品の中には、ハワイ先住民の血を引く芸術家たちが様々な媒体・素材・方法を駆使し、植民地化に対する抵抗や対立といった感情を表現しているものも多くありました。と同時に「脱植民地化された心(マインド)」というのはハワイ先住民にとって何を示すのかーという問いもふと頭をよぎりました。
写真3 伝統的な大型ドラムPahuをモチーフに、植民地化によって奪われた先住民の言葉や文化についてハワイ語で書かれている
前回に引き続き、ハワイに関する展示について書きましたが、二つの展示を見て感じたことは、まったく異なる焦点、文脈、メッセージ性を持った内容であり、接点をほとんど見いだせなかったということです。逆に(やや辛口に)言えば、各展示が多民族社会の象徴と言われるハワイの歴史をmono-ethnicな視点からしか描いていなかったと言えるでしょう。もちろん、展示の聴衆がハワイについてあまり知らないヨーロッパに住む人々であることや限られたスペースを考えると、どちらも非常に説得力にあるものに仕上がっているといえます。しかし、そこにはハワイを「民族別」に見るという長い伝統が、良くも悪くも反映されているとも思いました。ドイツ、スイスでの展示から、ハワイを研究する者として、ハワイをどう捉え、見せていくのか、改めて考え直す機会となりました。
*HP: https://www.lindenmuseum.de/sehen/ausstellungen/hawaii/、2017年10月14日ー2018年5月14日開催
**「複数帝国の連関史:環太平洋地域をつなぐグローバル・ネットワークと島嶼植民地支配」国際共同研究強化基金 2017-2019 (代表飯島真里子、研究課題番号:16KK0036)