今年は、イギリス人航海士James Cookが太平洋に向けてイギリスを出港してから250年ということで、同国では彼の航海に関連するイベントが開催されています。ひとつは、British Libraryで開かれた“James Cook: The Voyages”(4月27日―8月28日)で、Cookの3回にわたる航海を乗船していた科学者、植物学者、船員によるスケッチ、地図や日記から丁寧に読む解いた展示でした。この展示は写真撮影禁止ということでブログには書きませんでしたが、“The Voyages of Captain James Cook”に展示品の紹介が詳しく載っていますので、ご覧ください。
一方、今回訪れたRoyal Academy of Artsによる企画展“Oceania”は、今年最後の、そしてヨーロッパ最大規模の太平洋世界に関する展示となりました(9月29日―12月10日)。展示では、主にヨーロッパの民俗博物館から集められた所蔵品200点ほどがnavigation, rituals, memoryなどのテーマごと展示され、展示品がどのような文脈で使用されたのかわかるように並べられています。例えば、navigationをテーマとした部屋には、航海時に先住民が使用したアウトリガーやカヌーが、海をモチーフとした壁を背景にハイライトされています。その中で特に興味深かったのは、先住民が作った航海地図です。小さな貝を島に見立て、太平洋に無数に浮かぶ島々(貝)を結ぶネットワークや航海を妨害する海流などが木の棒で見事に表現されています。
写真1 Navigationの部屋の船 写真2 先住民による海の地図
一つ一つの展示品は非常に良い状態で保存されているため、細部まで見ることができます。ただ、ここでは展示品よりも、展示の意味について少々批判的に考いていこうと思います。今回オーディオ・ガイドを借り色々な説明を聞きましたが、その中で気になったのは、展示されている品々が先住民との「交換」によりヨーロッパに持ってこられたことが強調されていたことです。ただ、先住民がヨーロッパ人から交換されたものは何だったのか、その価値はどのくらいだったのか(クックの航海に同行したイギリス人乗組員によると、ハワイでの新鮮な水や食料の交換に使われたのは鉄の釘でした)についてはわからず、交換のもう一方側が見えなかったことです。さらに踏み込めば、人どうしの接触・物の交換は、太平洋の島々に多くの病をもたらし、先住民人口の急激な減少を導きましたが、それに関しては展示から読み取れることはできませんでした。
もう一つは、今回のタイトルにあるようにOceania世界の多様性が見えてこなかったことです。広域にわたる空間に点在する島々は先住民がネットワークを築き上げてきたことは事実ですが、例えばハワイ諸島とニュージランドの先住民は、異なる言語文化体系を作り上げてきましたし、それぞれの島はどのヨーロッパ帝国の支配・影響を受けたかによって、多様な「コロニアル経験」をしています。今回の企画が展示品を島々の歴史文化的背景にあまり注意を払わず、用途別に配置してしまったことが、多様性を消してしまったともいえるでしょう。
写真3(左)現フランス領ソシエテ諸島で使われた鎧(喉当て)ー18世紀初頭
写真4(右)現パプアニューギニア独立国で使われた頭の飾りー20世紀初頭
※以上が隣同士に展示されている
6ヶ月間のチューリッヒの滞在で、ハワイや太平洋に関する展示を4つほど鑑賞する機会に恵まれました。対象地域時代は似ているとはいえ、こうやって比べるとそれぞれの展示の特徴が見えてきて非常に面白く、今後日本での同様の展示についても考えていきたいと思います。
「複数帝国の連関史:環太平洋地域をつなぐグローバル・ネットワークと島嶼植民地支配」国際共同研究強化基金 2017-2019 (代表飯島真里子、研究課題番号:16KK0036)