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2017.07.01 / Category : 未設定
太平洋世界のグローバル・ヒストリ-:アジア、北米、島嶼地域を繋ぐ多方向的移動とネットワークの形成

研究の概要

(1)大西洋世界と太平洋世界を繋ぐ空間としての北米地域の考察。Kenneth Pomeranz著The Great Divergence: China, Europe, and the Making of the Modern World Economy (2000)などにみられるように、グロバリゼーションの歴史的解明にあたっては、ヨーロッパ帝国アジア帝国(主に中華帝国)の関係に注目した研究蓄積は多くあるが、北米地域大西洋―太平洋世界の繋ぐ空間として捉えた研究は希薄である。本企画では、増井がルター派敬虔主義、大塚が捕鯨船、小塩が耽美主義を研究テーマとして、ヨーロッパを起点とした思想・主義・モノが北米地域を経由してアジア地域に到達する過程とともに逆流する現象も視野に入れ研究を進める。
(2)アジアと北米地域の<従属的関係>を超えた関係史の構築。北米-アジア関係史に着目する際、その研究の多くが、アジアの従属性を強調する傾向にある。その従属性は否定されるものではないが、一枚岩的な理解をより複雑化するために、本研究ではアジア島嶼地域の眼差しから北米地域を再考する。具体的には、今野が北米沿岸部における日本人漁民の活動、牧田がフィリピン現地住民の経験からみた米国赤十字の活動、佐藤がハワイ出身日系アメリカ人兵士のアジア地域における従軍・進駐経験を考察することで、アジア―北米地域の国際関係及び人種関係を協働・対立・折衝などの複数の視点から考察する。
(3)太平洋を舞台とした<多方向的移動>とネットワークの形成。(2)を達成するもう一つの手段として、本研究では移動の多方向性に注目する。米山裕、河原典史編『日本人の国際移動と太平洋世界』(2015)をはじめとして、日本から移民先への一方向的移動に主眼が当てられるが、本研究では人に加え、思想・モノ・技術等の移動ネットワークの考察を含めることによって太平洋世界のダイナミズムを解明するとともに、それらの移動に影響を受けた各地域との関係性を描き出す。この視点は、すでに全てのメンバーによって共有されているが、特に日本人コーヒー栽培者の帝国間・植民地間移動について研究を進める飯島と日米間の宣教師とその弟子たちの循環的移動を研究する石井が、太平洋世界をめぐる移動の概念化を試みる。
(4)太平洋世界の形成過程における島嶼地域の重要性。ハワイ・南太平洋地域は、アジアや北米地域とは異なる独自の文化を持つ先住民が住んでいた地域であり、従来のパシフィック・スタディーズでは先住民の植民地経験が強調されてきた。近年では、David Igler著The Great Ocean:Pacific Worlds from Captain Cook to the Gold Rush (2014)のように、太平洋を舞台とした先住民と移住者の関係を交易の視点から考察した研究も出てきている。本研究ではパシフィック・スタディーズの研究蓄積を踏まえながら、19世紀から20世紀前半までを時代設定とすることで、交易以外の現象にも注目し、島嶼地域における多民族(先住民と移住者)の移動接触が太平洋世界の複雑な社会・経済・人種構造の形成に与えた影響について考察する。

研究メンバー

飯島真里子(代表、上智大学外国語学部准教授)
大塚寿郎(同大学文学部教授)
増井志津代(同大学文学部教授)
石井紀子(同大学外国語学部教授)
小塩和人(同大学外国語学部教授)
今野裕子(同大学言語教育研究センター講師)
牧田義也(立命館大学政策科学部助教)
松平けあき(上智大大学グローバル・スタディーズ研究科博士課程)
名和玲(アメリカ・カナダ研究所RA)

主な活動

2016年度
・研究会「グローバル・ヒストリーにおけるネットワークの考察:戦前ハワイ・台湾におけるコーヒー栽培史を事例として」
 発表者:飯島真里子(上智大学准教授)
 日時:2016年5月12日(木)17 : 00-19 : 00
 場所:上智大学中央図書館L-721A アメリカ・カナダ研究所

・研究会「日系アメリカ人二世のアジア・太平洋従軍:人種、エスニシティ、市民権の考察」 
 発表者:松平けあき(上智大学博士課程大学院生)
 日時:2016年6月2日(木)17 : 00-18 : 30
 場所:上智大学中央図書館L-721A アメリカ・カナダ研究所

・研究会「ハワイにおける水産業の発達と日本人
 講師:小川真和子(立命館大学准教授)
 日時:2016年7月22日(金)16:00-18:00
 場所:上智大学中央図書館L-721A アメリカ・カナダ研究所

・国際学会での発表:The Pacific Coast Branch of the American Historical Association第109回年次大会
  パネル名:”Japanese Migration and Flows of Commodities, Organizations, Skills, Knowledge, Religion and Information in the Asia-Pacific Region”
  パネリスト:小川真和子(立命館大学)、飯島真里子*、今野裕子*、松平けあき*     (*本学内共同研究のメンバー)
  日時:2016年8月4日-8月6日(発表日は8月6日) 
  場所:アメリカ合衆国ハワイ州ワイコロア・ビーチ、マリオットホテル

・国際シンポジウム「アメリカ大陸と太平洋地域をつなぐ: 「境界」を超えることの課題と可能性
  日時:2016年11月17日(木)13:15-18:15
  場所:上智大学中央図書館9階921会議室
  主催:上智大学イベロアメリカ研究所/上智大学アメリカ・カナダ研究所
  後援:学術研究特別推進費「太平洋世界のグローバル・ヒストリー:アジア、  北米、島嶼地域をつなぐ多方向的移動とネットワークの形成、学内共同研究「アジア太平洋時代のラテンアメリカ:変貌する国際関係と地域概念」

・研究会「Pacific Coast Branch, American Historical Association, 109th Meeting報告」
  発表者:今野裕子(上智大学講師)
  日時:2016年10月6日(木)17:00-18 : 30
  場所:上智大学中央図書館L-721A アメリカ・カナダ研究所

 ・研究会「小圃千浦/チウラ・オバタ 『Lake Basin in the High Sierra (ca. 1930)』に おけるアメリカ近代美術と1920年代日本画の融合
  発表者:桂麻子(上智大学修士課程大学院生)
  日時:2016年10月27日(木)17 : 00-18 : 30
  場所:上智大学中央図書館L-721A アメリカ・カナダ研究所

・研究会「記録と記憶のアメリカ―モノが語る近世』をめぐって」   
  講師:和田光弘(名古屋大学教授)
  日時:2016年12月3日(土)15:00〜17:00
  場所:7号館407号室
   共催:初期アメリ学会

・研究会 ”Who remembered who Made Chicken of the Sea when Pearl Harbor was attacked?
  講師:櫻井敬人(太地町教育委員会副主幹・歴史資料室学芸員)
  日時:2017年1月25日(水)15:00〜18:30
  場所:上智大学中央図書館L-721A アメリカ・カナダ研究所

2017年度
・研究会「風景画に見るトランスパシフィック・アメリカ
  発表者:小塩和人(上智大学教授)
   日時:2017年4月13日(木)17:00〜19:00
  場所:上智大学中央図書館L-721A アメリカ・カナダ研究所

・研究会「人形という贈与―日米親善人形交流90年における交換・ジェンダー・未来
  講師:宮崎広和 (コーネル大学教授)
  日時:2017年5月18日(木)17:00〜19:00
  場所:上智大学中央図書館L-721A アメリカ・カナダ研究所

中間報告書「太平洋世界のグローバル・ヒストリ-:アジア、北米、島嶼地域を繋ぐ多方向的移動とネットワークの形成」(飯島真里子編、2018年3月)の刊行